Monday 9 February 2009

vol.209 連載【story in the song】星屑の停留所 最終話


story in the songは歌からインスピレーションをうけた物語を書いていきます

<読んでいない方はこちらから>



「男の子は屋根裏部屋からよく乗ったよ。そう、大きな時計の話もよくしてくれたっけ。」
「あの時計の?」
「そう。男の子のおじいさんのものだって。」
「男の子はパパ?」
キツネは運転するのをやめて、星屑の中にバスを浮かべて止めた。
ゆっくりうなずくと、
また話はじめた。

「今でも覚えてるよ。いろんなところに行ったなぁ。その頃はお客も他にもいたし、男の子はいろんな話もしてくれた。そういえば、元気なのかい?その、、、、男の子は?」
「いつも"ふけいき"だから大変だって、あんまりおうちにはいないわ。屋根裏部屋にある時計のことだって、ずっと忘れてる。」
「そうか・・・・。その時計だけど、君のひいおじいさんはね、大人になってもこのバスと僕のことを忘れなかったすごいひとだったんだよ。だから、いつか君のパパや君が僕と出逢えるようにあの柱時計を残してくれたんだ。気まぐれに鳴るあの時計は、昔から出発の合図だったからね。」
「パパも、時計をみたら思い出すかしら?」
「さぁ。」

パッパー

キツネはまた2回クラクションを鳴らした。


「私は忘れないわ。」


「どうかな。それはわからないね。」
キツネはそう言ってくくく、と笑った。
「さぁ、今日はこれで引き返さないと遅くなりそうだから、また次回。今度は別のルートでつれていってあげるよ。」
キツネはエンジン音より大きな声でそう言ってバスを急旋回させた。
女の子のバス停まで。
星をよけながら。
何十年前も、
確か同じようなうれしい気持ちでいた。
こんなのは久しぶり。
うれしいけれど、切ない気持ち。
でもやっぱり幸せだ。
キツネはそんなことを考えていた。




あれからどれくらいたっただろう。
明日は女の子の16回目の誕生日。
パパのアメリカ転勤が決まりここを離れる。
最後の夜。
ほとんどがらんとした部屋。
そしてここでの小さい頃からの思い出。
でも女の子にはひとつ思い出せない何かがあった。
とても大切で、おぼろげなもの。
(きっと気のせいだわ。)

嵐の過ぎた月の明るい静かな夜に、
柱時計はもう鳴らない。

女の子がここでの最後の眠りについた頃、
夜風にふかれて一枚の紙切れが床に落ちた。
それには誰も気づかない。
どこにも印のなくなった、
キツネのバスの時刻表だということを。




おわり








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