Friday 15 May 2009

vol.235 【コラム】「千と千尋の神隠し」の原作といわれる柏葉幸子の世界


子供の頃の大好きな物語霧のむこうのふしぎな町 大好きすぎて、小学校四年生にしてクラス劇の台本を書き上げ、全校生徒の前で発表した。この右側は初版の表紙で、この絵を見ながらこの町のことをずいぶん妄想した。




主人公のリナは夏休みを父親の知り合いがいるという町で過ごすように言われる。最寄り駅で電車を降りたリナは「霧の谷知りませんか?」と、町のひとに聞くけれど誰一人としてその町を知るひとはいない。でも「いつだったか、同じピエロの傘を持った男の子を神社まで乗せたことがある」おじさんのトラクターに乗せられ、同じ神社でおろされた。リナは、父親から預かったピエロの柄のついた傘を握り締めて山道を歩きはじめたが、強風で薄暗い林の中に傘が飛ばされてしまう。追いかけるうち、足の感覚が変わってきていた。土の道が、ぬれた石畳に変わっていた。周りは深い霧がたちこめてリナが途方にくれそうになった時、いっきに晴れた霧の向こうに見たものは、洋館立ち並ぶ不思議な町だった。




そこで過ごす、不思議な夏休み。
それがこの物語である。


そしてこれこそが宮崎駿監督が「千と千尋の神隠し」のベースとなっている。宮崎監督はこの作者の柏葉幸子さんの世界に魅せられて、この原作のままアニメ化しようとしたが、色々な事情で実現しなかったそうだ。千と千尋のほうは、湯屋などが登場し、日本的な趣向となっているのに対してこちらの霧の向こうでは、日本国内の田舎が舞台なのにもかかわらず、その霧の谷の町は洋館が立ち並び街灯のある石畳の道、人種のわからない不思議なひとたちが住んでいる。リナが滞在するいじわるなピコットばあさんのお屋敷はとてもキレイでかわいいし、他の下宿人と関わりあいながら、その街で過ごす夏休みに子供の私はかなり夢中になった。


リナは早朝、自分の部屋の窓から屋敷の前をケンタウルスが走り去るのを見る。日本の田舎の山奥にそんな不思議な町がある、絶妙な文化のミスマッチが幼い私に不思議な余韻を残し、今でも忘れられない物語となって記憶に残っている。



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